地図投影法の教科書
地球儀は、破るか引き伸ばすかしなければ平らにできません。これは意見ではなく定理です。だからすべての世界地図は、何を正しく保ち、何を諦めるかの決断です。この頁では三つの選び方を説明し、なぜメルカトルではグリーンランドがアフリカと同じ大きさに見えるのか、2018年のイコールアース図法がどうやって面積を厳密に保ちながら地図らしい形を保っているのかを書きます。動かせる版は KUON EQUAL EARTH にあります。
平らな地図はなぜ必ずどこかで嘘をつくのか
カール・フリードリヒ・ガウスは1827年に、球のような曲面は距離をすべて保ったまま平面に写せないことを証明しました。「驚異の定理」と呼ばれます。みかんの皮をむいて机に押しつけてみれば、裂けるか伸びるかのどちらかです。地図投影法とは伸ばし方の規則であり、規則が何を生き残らせるかを決めます。
競い合うのは三つです。角度。これを保てば局所的な形が正しくなります。面積。これを保てば地域の大きさが正しくなります。距離や方位。少なくとも一点から、あるいは一本の線に沿っては正しく。地球全体を写す図法で三つを同時に保つものはありません。ほとんどは一つを保って他を捨てるか、どれも厳密には保たずに傷を分散させます。
三つの選び方
正角図法は角度を保ちます。小さな形は正しく、経線と緯線は直角に交わり、羅針盤の方位は直線になります。有名なのがメルカトルです。代償は面積で、極に向かって際限なく膨らみます。
正積図法は面積を保ちます。地図上のどの二つの地域も、面積の比が地球上の比と一致します。代償は形で、大陸は斜めに引きずられたり潰れたりし、端に行くほどひどくなります。1772年のランベルト正積円筒図法、1805年のモルワイデ図法、ガル・ピーターズ図法、イコールアース図法はすべて正積です。
妥協図法はどちらも厳密には保たず、見た目が自然になるように調整します。1963年のロビンソン図法と1921年のヴィンケル第3図法が教室の壁の多くを占めてきました。見やすい図法ですが正積ではなく、ロビンソン図法でもグリーンランドは実際の相対的な大きさの2倍ほどに描かれます。
名前を挙げておくべき四つ目の種類があります。方位図法です。ある中心点からの方位や距離が正しくなります。極地にはこれが正しい道具で、KUON POLAR がメルカトルではなく極ステレオ投影を使っているのはそのためです。
メルカトルは何のために作られたか
ゲラルドゥス・メルカトルは1569年、航海のために世界地図を発表しました。この地図の上では、羅針盤の方位を一定に保って進む線(航程線)が直線になります。航海士は港から港へ直線を引き、角度を読み、その針路を保てばよい。これができる図法は他になく、四百年のあいだ、それがメルカトルの存在理由でした。
方位を直線にする数学は、面積を膨らませる数学と同じものです。緯度 φ において、メルカトルは縦横の両方向に 1/cos φ 倍だけ距離を引き伸ばすので、面積は 1/cos²φ 倍になります。赤道で1倍。緯度30度で1.33倍。45度で2倍。60度で4倍。70度で8.5倍。80度で33倍。極は描けないので、ウェブ地図は85.05度で打ち切り、世界は正方形になります。
国に当てはめると、たいていの人が思うより効きます。実際の輪郭で積分すると、メルカトルは日本を相対的に約1.6倍、ドイツを2.6倍、英国を2.9倍、カナダを5.2倍、ノルウェーを9.4倍、グリーンランドを16.5倍の面積で描きます。赤道をまたぐアフリカは1.1倍です。215万km²のグリーンランドが3,000万km²のアフリカと同じ大きさに見えるのはこの仕組みで、実際の比は1対14です。
これはメルカトルが間違いだという話ではありません。メルカトルは海図だという話です。2005年以来、世界中のウェブ地図のタイルはウェブメルカトル(EPSG:3857)を使っています。正角図法なら、街まで寄っても北が上で形が正しく、それが道路地図に求められることだからです。問題が始まるのは、同じ図法で世界全体を一度に見せ、読む人が大きさを文字どおりに受け取るときだけです。
イコールアース以前の正積図法
ヨハン・ハインリヒ・ランベルトは1772年に正積円筒図法を記述しました。面積は厳密で、形は容赦がありません。熱帯は縦に伸び、高緯度は平たく潰れます。1805年のカール・モルワイデの楕円は正積でより丸く、いまも天体のサーベイや地球規模の気候図に使われます。
ジェームズ・ガルは1855年に正積円筒図法の一種を提案しました。1973年、アルノ・ペーターズが本質的に同じ図法を、ヨーロッパ中心の世界地図を正す図法として発表し、ガル・ピーターズ図法として政治の場に入りました。相対的な大きさについての主張は正しかったのですが、地図そのものは大陸の間延びした形のために広く嫌われ、1989年には北米の地理学関係7団体が、矩形の世界地図そのものの使用をやめるよう出版社に求める決議を採択しました。
その後の三十年、実務の答えは妥協図法でした。ランド・マクナリー社は1963年にアーサー・H・ロビンソンの図法を依頼し、ナショナル・ジオグラフィック協会は1988年からこれを、1998年からはヴィンケル第3図法を使いました。自然に見える図法です。しかし正積ではなく、「正直そうに見える地図」と「正直な地図」のあいだの隙間は開いたままでした。
イコールアース:式と、何を保つか
2018年、Esri の Bojan Šavrič、当時アメリカ国立公園局の Tom Patterson、モナシュ大学の Bernhard Jenny の三人が、イコールアース図法を International Journal of Geographical Information Science(第33巻3号 454〜465頁、doi 10.1080/13658816.2018.1504949)に発表しました。目的は明確で、ロビンソン図法の見た目の良さを持ちながら厳密に正積であること。1934年の Putniņš P4′ 図法を出発点に、輪郭を多項式で整えました。
この図法は擬円筒図法です。緯線は水平な直線、中央経線は直線、他の経線は曲線です。経度 λ と緯度 φ をラジアンで取り、補助緯度 θ を sin θ = (√3 / 2) · sin φ で定めます。すると y = A₁θ + A₂θ³ + A₃θ⁷ + A₄θ⁹、x = (2√3 / 3) · λ · cos θ / (A₁ + 3A₂θ² + 7A₃θ⁶ + 9A₄θ⁸)、係数は A₁ = 1.340264、A₂ = −0.081106、A₃ = 0.000893、A₄ = 0.003796 です。x の分母は y を θ で微分したものです。仕掛けはこれだけで、緯線が縦に詰まる場所では経線がちょうど同じ倍率で横に広がり、面積がどこでも保たれます。
逆変換は閉じた形にはなりません。y が与えられたら九次の多項式をニュートン法で θ について解き(数回で収束します)、そこから φ と λ を戻します。実装に必要なのはこれだけで、だから PROJ は発表から数か月のうちに 5.2 で +proj=eqearth を足し、GDAL、QGIS、D3、Cartopy、ArcGIS が続きました。
係数からいくつかの性質が決まります。極は点ではなく線で、その長さは赤道の59.2パーセントです。地図全体は縦の2.05倍の幅を持ちます。正積という主張は、このサイトのビルドのたびに数値で検算しています。720×720の格子で面積の倍率を全球で積分すると 12.56638058、4π = 12.56637061 に対して相対差 7.9 × 10⁻⁷ で、これは格子の刻みによる誤差であってそれ以上のものではありません。同じ積分は 地図の頁 の「正積を検算する」ボタンでブラウザの中でも走らせられます。メルカトルで走らせて、外れるところも見てください。
イコールアースが諦めているのは端の形です。高緯度は圧縮され、外側の大陸は傾きます。距離も方位も保たれません。世界全体を見るための地図であって、船を操るためでも土地を測るためでもありません。
ティソーの指示楕円:歪みを見る
ニコラ・オーギュスト・ティソーは1859年に、球面上の無限小の円がどんな地図の上でも楕円になることを示しました。その楕円を一定間隔で描けば、図法が自分で自分を説明します。正角図法ではすべて大きさの違う円になります。正積図法ではすべて同じ面積で形が違います。妥協図法では両方が変わります。地図の頁では半径2.5度の円として描いています。図法を切り替えて、何が変わるかを見てください。
実務でイコールアースを使う
座標参照系は三つ登録されていて、違いは中央経線だけです。EPSG:8857(WGS 84 / Equal Earth Greenwich)は0度中心。EPSG:8858(Equal Earth Americas)は西経90度中心。EPSG:8859(Equal Earth Asia-Pacific)は東経150度中心。単位はメートルです。日本の教科書の太平洋中心の地図は東経135度から150度あたりを中心にしたもので、地図の頁にはその設定が用意してあります。
QGIS(PROJ 5.2 以降)では、プロジェクト、プロパティ、座標参照系と進み、フィルタに 8857 と打って WGS 84 / Equal Earth Greenwich を選びます。ベクタもラスタもその場で投影し直されます。アジア中心なら 8859 を選びます。
PROJ のコマンドラインでは定義は +proj=eqearth +lon_0=0 +datum=WGS84 +units=m です。GDAL でラスタを投影し直すなら gdalwarp -t_srs EPSG:8857 in.tif out.tif、ベクタなら ogr2ogr -t_srs EPSG:8857 out.gpkg in.gpkg です。
Python の pyproj では Transformer.from_crs("EPSG:4326", "EPSG:8857", always_xy=True).transform(lon, lat)。Cartopy では ax = plt.axes(projection=ccrs.EqualEarth())。D3 には d3.geoEqualEarth() が組み込まれています。このサイトは上の式を自前で実装して d3.geoProjection に差し込んでいるので、地図の頁で動いている式は上に書いたものそのものです。
すべての正積図法に当てはまる注意を一つ。その上で距離を測らないでください。イコールアースの上にキロメートルの方眼を引いても、中央経線の上を除いてどこも正しくありません。測量と測位には UTM や、日本なら 座標と高さ で説明している平面直角座標系のような、正角の局所系を使います。
どの仕事にどの図法か
海図や、人が寄って見る道路地図には正角図法。メルカトルか、タイルならウェブメルカトルです。世界全体の主題図、階級区分図、密度図など、読む人が地域の大きさを比べるものには正積図法で、そのなかで地図として読めるのがイコールアースです。壁の地図や教科書にはイコールアースか妥協図法を、図法名を地図に書いたうえで。北極と南極には極を中心にした方位図法。測るなら、メートル単位の局所的な正角系です。
正直な習慣は、地図に図法名を印刷することです。どの規則が適用されたかを知っている読者は、頭の中でそれを打ち消せます。知らない読者は規則に振り回されます。
2026年9月4日の決議
2026年9月4日、国連総会は世界地図にメルカトルに代えてイコールアース図法を推奨する決議を採択しました。賛成は日本を含む164か国。反対はアメリカ合衆国の1か国。棄権は6か国でした。決議はトーゴが主導し、アフリカ連合が後押しした Correct The Map 運動から生まれました。運動は、百年にわたる教室のメルカトル地図が人々の頭の中でアフリカを縮めてきたと主張していました。ロイター通信によれば、アメリカはこの決議を思想的なものだとし、国際平和に資さないと述べました。
総会の決議は勧告であって法律ではありません。変わるのは既定値です。これからは、世界地図にメルカトルを選ぶ出版社は、習慣に従っているのではなく選択をしていることになります。この頁の数字は、その選択の重さです。