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逃げた猫は、どこにいるのか

猫が家から出てしまったとき、飼い主が最初に詰まるのは「どこまで探せばいいのか」です。近所を一周するのか、町内に貼り紙をするのか、何キロ先まで見るのか。この問いには論文の答えがあります。ただし論文だけでは足りません。足りない部分がどこかも、あわせて書きます。

距離。ほとんどの猫は、思っているより近くにいる

失踪猫1,210件を扱ったHuang et al. 2018Animals 8(1), 5)は、発見された猫について次を報告しています。

発見距離の中央値は約50m。発見された猫の75%が、脱走地点から500m以内。

猫の暮らし方で大きく変わります。完全室内飼いは中央値39m、75%点137m。日常的に外に出ている猫は中央値約300m、75%点1,609m。屋外飼育は中央値183m、75%点1,609m(ただし標本が少なく不確かです)。

つまり室内飼いの猫が逃げたなら、まず半径140mを徹底的に見るべきで、そこを飛ばして町内に貼り紙をするのは順番が逆です。ただしこれは「必ずその範囲にいる」という意味ではありません。分位点であって、保証ではありません。

場所。庭と、茂みと、家具の後ろ

同じ論文が、実際に見つかった場所を挙げています。他人の庭、自宅のすぐ外、茂みや低木、デッキやポーチやテラスの下、ガレージ、他人の家の中、家具の後ろ、地下室。

共通しているのは、身を隠せる、狭い、暗いという点です。開けた場所を歩いて回っても見つかりません。しゃがんで、下を覗く必要があります。

そして重要な事実があります。失踪した猫は、近くにいても恐怖で鳴かず、飼い主の呼びかけに反応しないことがあります。「呼んでも返事がないから、ここにはいない」と判断してはいけません。

時間。7日で34%、それ以降はゆるやかに伸びる

同論文の生存発見率は、7日以内で約34%、30日以内で約50%、61日以内で約56〜57%、1年以内で約61%。生存発見された猫の失踪期間の中央値は約6日でした。

61日を過ぎると増え方は小さくなりますが、それ以降に見つかった例もあります。ある日数でゼロになるわけではありません。

自力で帰る猫は、何割か。分母に注意してください

Lord et al. 2007では、回収された73頭のうち48頭が自力で帰宅しました。

この数字は分母の取り方で二つに割れます。回収された猫だけを分母にすると66%。失踪した猫138頭すべてを分母にすると約35%です。

「猫の66%は自分で帰ってくる」という言い方をよく見かけますが、それは回収できた猫の中での割合です。帰らなかった猫を分母から外した数字を、全体の話として使ってはいけません。

オスだから遠くへ行く、とは言えない

Hall et al. 2016は、通常時の行動圏について、オスはメスより広い傾向、2〜7歳は8歳以上より広い傾向、住宅密度が低い地域ほど広い傾向を報告しています。去勢・避妊の影響は明確ではありません。

ただし「ふだんの行動圏」と「失踪したときの発見距離」は別のものです。次のような計算をしてはいけません。

オスだから探索距離を1.88倍にする。農村だから14.4倍にする。GPS研究の平均行動圏をそのまま探索円にする。

行動圏の研究は、遠い側の不確かさを見積もったり、どこで探索を打ち切るかを考えるときの補助として使うものです。探索円そのものにはなりません。

ここから先は、猫の論文には書かれていない

ここまでが、猫の研究から言えることのほぼ全部です。そして、これだけでは道具になりません。足りないものが二つあります。

足りないもの1。探したのに見つからなかった、をどう扱うか

ある茂みを見て、いなかった。これは「そこにいない」という意味でしょうか。違います。猫が隠れていて見えなかっただけかもしれません。

生態学には、この問題を正面から扱った理論があります。MacKenzie et al. 2002Ecology 83:2248-2255)の在不在モデルです。ある場所を1回調べて発見できる確率を検出確率と呼び、これが1より小さいことを前提に、「n回探して見つからなかった」から「いない確率」を計算します。

野生動物の調査では標準的な考え方ですが、迷い猫の捜索に持ち込んだ例を、私たちは見つけられませんでした。

実務的にはこうなります。1回見ただけの茂みと、3回見た茂みでは、同じ「見つからなかった」でも意味が違う。探索の記録が、次にどこを探すかを変える。

足りないもの2。限られた時間を、どこに配るか

飼い主の時間は有限です。どの順で、どこに時間を使えば、見つかる確率が最も高くなるか。

これは70年前に解かれている数学です。Koopmanによる探索理論(1956-57)と、StoneTheory of Optimal Search(1975)。海難救助で実際に使われ、沈没船や遭難者の捜索に成果を上げてきました。

考え方は単純です。存在確率(そこにいそうか)と検出確率(探して見つけられるか)を掛けたものが大きい場所から手をつける。存在確率が高くても、探しても絶対に見えない場所は後回しになります。

猫の捜索は、まさにこの形をしています。猫の論文が「どこにいそうか」を与え、探索理論が「どの順で探すか」を与えます。片方だけでは足りません。

どれくらいの人に関係する話か

Weiss, Slater & Lord 2012Animals 2:301-315)は、無作為の電話調査で、5年間に猫の12〜18%が最低1回は行方不明になると報告しています。犬は11〜16%。

無作為抽出なので、迷子猫の相談窓口に来た人だけを数えた調査より偏りが小さい数字です。

追い詰めないこと

猫は、慣れない環境と見知らぬ人によって強い緊張状態に置かれます。Kessler & Turner 1997の Cat Stress Score をはじめ、隠れ場所が猫の緊張を下げることを示す研究が積み重ねられています。

したがって捜索は、大人数で囲まない、大声で呼び続けない、脱走地点の周りを必要以上に騒がしくしないという形をとるべきです。猫が自分で戻れる道を空けておくほうが、追いかけるより見つかります。

私たちが作ろうとしているのは捕獲の道具ではありません。猫が自分で帰ってくるのを助ける道具です。

正直に書いておくこと

猫の研究は3本しかありません。しかも中央値と分位点しか報告していないものがあります。中央値と75%点しか分からない論文から、なめらかな確率の曲線を描いて「論文の結果」として出すことはできません。

この記事の数字は、すべて原典の報告どおりです。私たちが足した推定は、足したと分かる形で書きます。どこまでが論文で、どこからがKUONの模型か。その境目を隠さないことが、この分野で最も大切なことだと考えています。